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季刊誌「お元気ですか」2009年10月号インデックス

文中の肩書は取材当時のものです。

メタボリックシンドロームと糖尿病の関係 その1

東京女子医科大学脳神経外科教授 東京女子医科大学付属病院副院長 久保 長生

順天堂大学内科学・代謝内分泌学
綿田 裕孝

はじめに

 現在、メタボリックシンドロームという言葉は誰もが知っている一般的な言葉となっています。メタボリックシンドロームは勝手に、“メタボ”と省略され、“メタボな人”などのように形容詞としても使われ出しています。
 昨年4月から、特定健康診査、通称メタボ検診が始まり、すべての国民がメタボリックシンドローム、メタボリックシンドロームの予備軍、あるいはいずれでもない、の3群に分類されるようになりました。もしも、メタボリックシンドロームと診断されたらどうしたら良いでしょうか?人によって受けとめかたが全く異なると思います。極めて真剣に受け止める人もいるでしょうし、また全くおせっかいな話だと思われる方もいるでしょう。しかし、最も重要なことは、正しく、メタボリックシンドロームを理解するということです。

生活習慣病と脳の病気

 炭水化物、脂質、蛋白質を3大栄養素といいます。私たちのエネルギーの源はこれらの3大栄養素です。メタボリックシンドロームはこれらの栄養素の摂取の増加と消費不足(運動不足)、すなわち過栄養状態により引き起こされます。過栄養状態だと太りますが、それは活動に不要な余剰のエネルギーが脂肪細胞に中性脂肪という形で蓄積されるからです。脂肪細胞は大変重要な細胞で、脂肪でも、炭水化物でも、蛋白質でもどのような栄養素であれ、摂取したエネルギーのうち余剰のエネルギー分を中性脂肪という形で蓄えることのできる細胞です。

また、脂肪細胞は、中性脂肪の蓄積度に応じて、血糖を下げるホルモンであるインスリンの作用に影響を与える物質を分泌します。それがアディポネクチンです。中性脂肪の蓄積度が少ない脂肪細胞からはアディオイネクチンが多く分泌されていますが、これは、インスリンの効きを良くして、血液中の糖分を細胞内に取り込ませる作用を促進します。一方、メタボリックシンドロームの人に認められる中性脂肪の蓄積度が多い脂肪細胞からのアディポネクチン分泌は低下し、変わりに動脈硬化を促進させたり、インスリンの効きを悪くしたりする物質の分泌が増加します。そのため、インスリンの作用が低下し、血液中の糖分が細胞内に入り込みにくくなります。簡単にいうと、過栄養は脂肪細胞内の脂肪蓄積量を変化させ、脂肪細胞からのホルモン分泌動態を変え、インスリンの効きを悪くさせます。この状態がメタボリックシンドロームの根本病態なのです。
図1

メタボリックシンドロームの問題点

 現在、日本人の脂肪の約30%は心疾患や脳血管疾患などの心血管系疾患によるものです。さらに、このうちの約半数をしめる脳血管疾患では、死亡に至らない場合でも、日常生活が多く制限され、「寝たきり」の原因の第一位にランクされています。このような事実から、心血管系疾患の危険因子を見つけて、疾患の発症を予防することは極めて重要です。アメリカでは、第二次世界大戦後、大規模な疫学研究が行われました。その結果、喫煙、高血圧と並んで、コレステロール、とくにLDL-コレステロール(悪玉コレステロール)の高いことが、心筋梗塞の危険因子であることが明らかになりました。そこで、アメリカは、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)を下げる取り組みをしました。また、禁煙も奨励しました。しかし、心筋梗塞で亡くなる人は、期待していたようには減少しませんでした。その原因のひとつが、生活の近代化に伴うメタボリックシンドロームの増加のためなのです。

メタボリックシンドロームの人は、上述した理由でインスリンの効きが悪いという特徴を持っています。インスリンの効きが悪い状態のことを“インスリン抵抗性”と言います。インスリン抵抗性は、中性脂肪の増加、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の低下といった、脂質異常症、および、高血圧の発症を増加させます。また、血糖値を下げるホルモンの作用が低下するわけですから、血糖値が上がりやすくなります。まとめると、メタボリック症候群とは、肥満、とくに内臓脂肪の過剰な蓄積、つまり「内臓脂肪型肥満」を病気の源流として、境界型糖尿病、脂質代謝異常(高中性脂肪血症あるいは低HDL血症)、高血圧などが、ひとりの人に重なり合って起ってくる病態(疾患)のことです。心筋梗塞や脳梗塞など、日本人の死因の多くを占める疾患は動脈硬化の進展の結果発症します。動脈硬化の古典的なリスクファクターは、高中性脂肪血症あるいは低HDL血症、耐糖能異常、高血圧、高LDL血症、喫煙です。これらが重なり合って存在すると動脈硬化の進展が早まることは良く知られています。メタボリックシンドロームが問題なのは、5つの古典的危険因子のうち3つが同時に集積して出現しやすいということです。

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