東京女子医科大学脳神経外科教授
東京女子医科大学付属病院副院長
久保 長生
脳の世紀
近年、今まで解明されていなかった脳に関する研究がさまざまな所で進み、その解明が現在急速に進んでいることから21世紀は「脳の世紀」と言われており、脳を「守る」ための多くのスローガンがあふれています。最近は社会構造が極めて複雑になり、病気も多岐に渡っております。その中で、脳の健康がいかに重要なものかを知ることはとても大事で、自分の脳に無関心ではいけません。これからは脳を「守る」だけではなく「活かす」ことが大切になってきます。今回は、このようなテーマでお話をいたしますので、自分の脳がいかに活かされていないか、もう一度考えてみてはいかがでしょうか。

貝原益軒(1630~1714)は、83歳のときに「養生訓」を書きました。彼は医学、本草学(薬学)、地理学、儒学、歴史学に通じる学者です。この著者の中で「養生の基本は、人間本位、現世本位、世界観からなる。人間の寿命は100歳であるが(この時代の平均寿命は50歳である)、10人中9人は自ら損なえる。ここに養生訓の原点がある」と述べています。さらに、体本来が持つ「伸び行く力」を、自然にまかせて伸びるように仕向けること。具体的には、心を静平に保ち、体を絶えず動かすこと。心の静平とは、①じっとしているのではない。②心は絶えず働いている。③むらなく無理なく「働かせる」適度な運動を、ともあります。
では、心の養生とは何でしょうか。それは「畏る(おそるる)の字、これなり。畏るとは身を守る心法なり」ということなのです。
- 慎む:自己検討
- 外敵(暑、寒、湿、乾):畏るとは外敵を防ぐ力
- 内敵(飲み、食い、怒り):忍ぶとは内敵に勝つ力
貝原益軒が記した心の養生をまとめますと、このようになります。現在でも十分通用する内容であり、高いサプリメントを常用するよりも良い養生法ではないでしょうか。一見、脳とは直接関係がないように思えますが、これらのことを心がけて生活することがとても大切です。なぜなら、生活習慣病と脳の病気とは密接な関係があるからです。
生活習慣病と脳の病気
近年、生活習慣病について広く知られるようになりました。生活習慣病とは、食生活や運動不足、喫煙、飲酒、ストレスなど、普段の生活の積み
重ねを原因とする病気のことで、がん、脳卒中、心臓病をはじめ、糖尿病、高血圧や喫煙による循環器病」、アルコール性肝疾患なども含まれます。
総務省の調査によると、がん、脳血管疾患、心臓病、糖尿病、高血圧の五つの生活習慣病による死亡者数が増加しています。町ぐるみで在宅健康管理システムの整備や、減塩食などの生活改善を進め、脳血管疾患の死亡率を改善させた地域もあります。生活習慣病と血管病変は、極めて密接な関係があるのです。
皆さんは「脳が疲れているな」と心配したことがあるでしょうか。「昨日は飲みすぎた、食べ過ぎた」など胃や肝臓を心配することはあるでしょう。しかし、脳をいたわるということは殆どないのではありませんか。せいぜい物忘れが出てきた頃に「認知症の始まりか」位にしか思わないでしょう。しかし体全体を考えると、生活習慣病→血管病変→動脈硬化症と結びつき、さまざまな病気の原因や病態に関係します。
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