北里大学名誉教授
医師 冨田 友幸
つぎに肺がんについてお話をします。男性の場合、がんの中で最も多いのが肺がんであると以前より言われてきておりますが、一昨年からは女性でも肺がんがトップになりました。そこで、レントゲン検査やCT検査などを行なう肺がん健診が重要視されなければならないのですが、マスコミなどにより、胸部レントゲンは肺がん発見に有用ではないという事をかなり書かれました。その根拠となったものが1996年のアメリカの実験データですが、よく調べてみると、これは実験の行なわれ方が悪く、しかも古いデータですので、今では治るものでも、当時の医療技術では治すことが出来ずに死亡しているケースもありました。現在、最も支持されているのは日本の研究データです。そこでは、レントゲンと喀痰細胞診の検査をすることによって、肺がんの死亡率を減らすことが出来るという結論に至っています。
では、肺がん健診でどれくらい肺がんを見つけられるかですが、胸部レントゲン写真と喀痰細胞診の実施では、大体64%から76%くらいの確率で発見できます。ですが逆に言うと、見つからない場合もあるという事です。肺がんは、必ずしもレントゲンに写る訳ではありません。とくに淡いがんは、骨や血管と重なって良く見えないことがあったり、心臓の影に隠れて見えないこともあります。そのため、喀痰細胞診と組み合わせて検査をしたり、あるいはCT検査をする必要があるのです。
次にじん肺の健康診断についてです。じん肺で心配されるのは、やはり肺がんです。1977年に、国際がん研究機関(IARC)が「結晶性シリカ(石英)には発がん性がある」と定めました。じん肺は、アスベストを吸って何十年も経過してから肺がんなどを発症するということで、数年前から色々と話題になりました。アスベストは屋根にも壁にも、車にも使われ、理科の実験室にもありました。色々なところに使われておりますが、これからも、当時建てられた家を解体する際に、大きな問題となるでしょう。
最後に、胸部レントゲンの放射線被爆量についてです。通常の胸部レントゲン検査での被爆量は0.04mSV程度ですから、問題の無い量です。ICRP(国際放射線防護委員会)でも、「放射線の被曝は出来るだけ少なくしなければならないが、医療上有益がある時には、必要に応じて行なう」という事になっております。
胸部レントゲン検査が、有益性と有害性の、どちらが大きいかという調査でも、やはり有益性のほうが大きいとの答えが多いです。また「結核の発見だけを目的とするものだと思いますか」と、全国の健診機関、医学部、および専属産業医にアンケート調査をしたところ、ほぼ全員の方が「そうは思わない」という答えでした。
胸部レントゲン写真からは、結核や肺がん以外にも、横隔膜の異常、心臓の異常、過去に怪我をした跡、背骨の曲がり、動脈の曲がり、胸膜炎の跡など、様々な事を知ることが出来ますし、健康診断を確実に受けたという記録も残ります。健診における胸部X線検査の意義、そして有効性を一人でも多くの人に知っていただければ幸いです。