北里大学名誉教授
医師 冨田 友幸
胸部X線検査は労働安全衛生規則により、事業主の責任で従業員に対し年一回の実施が義務付けられております。この検査の重要性について、先ごろ行なわれた同友会医学講演会に、北里大学の冨田先生をお招きしてご講演をいただきました。今回はその内容を抄録いたします。
呼吸器の検査として行なう胸部X線検査はもともと結核の発見のために始まった歴史があります。
結核菌の発見は、今から120年くらい前のことです。当時、結核は日本で一番死亡率の高い病気で、「死の病」と呼ばれ恐れられていました。しかし第二次世界大戦の終戦後、ストレプトマイシンという抗結核剤が発見されてからは、どんどん結核の治療が出来るようになり、死亡率も下がっていきました。その影響もあってか、数年前に結核予防法が改定となりまして、65歳以下の人は胸部レントゲン撮影を行なわないことになりました。しかし、労働安全衛生法に基づく定期健康診断においては、現在でも全ての人を対象に胸部レントゲン撮影は行なわれており、今後どうするのか、という議論になっています。今、厚労省の検討会で、定期健康診断での胸部レントゲン検査について、年齢40歳以上の人のみに実施を、という案が出ています。しかし、実際の結果をみると、結核罹患率の年齢による差はありません。むしろ若い人にも増えてきている傾向があり、検査の実施を年齢によって区切ることは無意味、かつ非常に危ないという事が言えるのです。
日本で働くために入国をしてくる外国人が沢山おりますが、厚労省の調査結果を見ますと、そういう人達の中でも、とくに入国して5年以内の、若い人達の結核が多くなってきております。つまり、健康診断など普段行なわれていない国から来た人が感染源になっている可能性が十分に考えられます。逆に、外国へ出張される日本人も沢山いると思います。私も千人くらいの規模の会社で産業医をしていますが、この数年の間に結核が何人か出ております。とくにアフリカなどでの結核罹患率は非常に高いです。アジアでも、中国、ロシア、ベトナム、そしてフィリピン、インドネシアなどへ出張する人も多いかと思います。海外渡航健診というのもありますが、これは長期の出張でないと行ないませんので、数日で帰ってこられる人は対象となりません。そのためにも定期健康診断での胸部レントゲンは必要なのです。
罹患率が10ポイントを超えていると、それはもう中蔓延国なのですが、日本の結核罹患率は、近年ようやく20ポイントを割ったところです。アメリカなどに比べると30年は遅れている状況ですので、ここで結核予防対策の手を緩めるわけには行かず、この問題は今もまだ決着はついておりません。

結核には、出来やすい場所があります。肺の後ろ(背中側)の上部、専門的にはS2、S6といった場所で、これは肺の中で換気効率と血流に関係しています。肺の上の方は、空気は少ししか入ってこず、さらに立っている状態では血流も悪い。そのため、その部位で結核菌が増殖しやすく、また、たとえ薬を飲んだとしても、その部位だけ効き目が弱くなるのです。よって結核の治療の際には、背中を下にして仰向けに寝ている状態にするのです。労働安全法で、「一ヵ月あたりの残業が80時間を超える、あるいは45時間を越えて産業医が必要と認めた人は、健康への配慮が必要な労働者である」と定めてあります。これは主に心筋梗塞や脳梗塞を対象としているのですが、結核についても当てはまるものです。労働時間が長いということは、立っている時間が長く、肺の上部の、空気と血の巡りが悪くなり、結核発症のリスクが高まります。
また、最近問題視されているのは、多剤耐性結核と呼ばれる、薬が効かない結核です。アメリカのデータによると、結核菌のうち、これらの菌が21%も含まれており、さらに超多剤耐性結核というものが2%くらい存在します。薬が効かないとなると、当然死亡率は高くなり、多剤耐性結核で25%、超多剤耐性結核では33%にもなり、大変恐ろしいものです。
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