
(作 家)
私が健康というものを切実に意識したのは、15年前に夫と息子を亡くした時からです。私の夫は旅先の露天風呂で突然亡くなって、息子の場合は、ちょっと具合が悪いと言っていたと思ったら、すでに末期のすい臓がんでした。人間って、いつ死ぬか分からない。徒然草にも「死は前よりしも来たらず、かねて後に迫れり」とあるんです。
突然背後から忍び寄り、ドンと背中を押すように人を死なせてしまうんですね。それからは、毎日、ひと時ひと時を、ていねいに積み重ねるようにして生きるしかないと思うようになりました。以前より、そういう気持ちはあったのですが、皮膚で感じるほど身近に死と接して、残された人の悲しみの大きさを知り、一層その思いが強くなりました。
今、私が元気でいられるのは、自分のやりたい仕事が出来るからでしょうね。努力して原稿を仕上げて、それが活字や本などの形になる。そして、それを人に読んで頂き、評価を頂く。これはとても嬉しいことです。もうひとつは、マイナスの考えを出来るだけ持たないようにすることです。ときには愚痴をこぼしたくなることもあります。でも、自分で自分を上手にコントロールして、プラスの考え方に変えていくんです。
食事にも、ちょっと気を配っています。自分でお料理するとき、一人暮らしなので、量は少なくてすみます。ですから、少し値段が高くても、新鮮な食材の、良いところを少しずつ買うんです。新鮮な、良い野菜って、本当においしいですよ。外食の際には、レストランとかお寿司屋さんとか、気に入ったお店と友達のようなお付き合いをするんです。すると、お店の人も私の好みや体調のことを良く分かってくれますから。なんだかマイキッチンみたいでしょ。
執筆の仕事は、毎日が緊張の連続ですが、本当に集中できるのは、せいぜい30分です。時折、お茶を飲んだりつまみ食いをしたり、椅子に座ってばかりの時は、ひざを伸ばして足を水平に持ち上げる運動をしたりします。以前は環境を変えて、ホテルで缶詰になったりもしましたが、最近は猫と暮らしていますから、出来なくなりました。その代わりに、猫が癒してくれるんです。話し相手もしてくれますよ、返事は「ニャーン」ですけどね。眠るときも一緒で、頭をもたせてくるしぐさが、何とも可愛らしい。猫に限らず、小さな動物とかお花など、なにか可愛がれる存在っていうのは大切ですよね。
睡眠については、私はよく「黒羊かんの切り口のように眠れます」とお話しするんです。すると皆さん、何のことか分からない顔をされますね。切り口が真っ黒で、スパッと切ったように眠れるということです。そして一度眠ったら、トイレにも起きません。
私にとって健康とは、食事をして「おいしい」とか、猫と触れ合って「可愛い」とか、人とお話をして「楽しい」とか、どんなに小さなことでも、ひとつひとつ、感じられるということでしょうか。実は、これは私の想像上のお話なのですが、いつも私の側には、頼りになるお医者様や、コックさん、執事がいてくれるんです。そして、今日はもう寝なさいとか、今日はこれを食べなさいとか、気遣ってくれる。じつは、自分で自分の世話をしているのですよ。なりたい自分になれるよう、いくつになっても自分育て。それが私の、健康の秘訣です。(談)