品川駅前メンタルクリニック
院長 有馬 秀晃
自殺者の推移
社会問題として頻繁に取り上げられるものの一つに、自殺者の増加があります。警察庁の調べによれば、自殺者は平成10年に初めて年間3万人を超えてから、それが10年連続で続いており、平成19年では3万3093人でした(図3)。これは交通事故死者数の6倍に及ぶ数字になります。

また、この3万3093人のなかには、仕事のストレスから心の病に罹り自殺に至ったケースが少なからず含まれており、実際、うつ病に関して言えば、罹った人のうち60%が自殺を真剣に考え、15%は自殺を実際に企てるということがわかっています。
うつ病とは
今まで見てきたように、職場のメンタルヘルス対策はうつ病・うつ状態の対策がまずは中心と言えます。実際、欠勤と原因疾患についてのある研究報告(井上幸紀.メンタルヘルス対策―休職した人の職場復帰について―.予防医学:2005.35,1―35.)からは、一ヶ月以上欠勤した人の15%は「こころの病」で休んでおり、そのうちの80%以上はうつ病であるということがわかりました。それではうつ病とはどのような病気であるかをあらためて確認してみましょう。うつ病は、人間関係、ホルモンバランス、脳卒中の後遺症など、さまざまな要因によって起こり、決して珍しい病気ではありません。厚生労働省の調査では、「日本人の15人に1人が人生のうち一回はうつ病を経験している」という結果が出ています。うつ病は多くの人が人生で一回は罹りうる脳(および身体)の機能不全状態のことです。
うつ病…体の中で何が起きているか
うつ病の状態のとき、人間の脳内ではどのような変化が起きているのでしょうか。うつ病に罹った人間の脳内では神経細胞が機能不全状態を起こしてしまっています。具体的には、ドーパミン、セロトニンやアドレナリンなどの神経伝達物質を分泌するはずの神経細胞が、それに至るまでの個人差はありますが、ストレスに曝された影響で疲弊してしまい、こうした物質をうまく分泌できなくなってしまいます(図4)。これらの物質は人間がふだん「快適な気分」や「十分な意欲」を保つため不可欠なもので、欠乏すると「憂うつな気分」や「意欲の減退」といった精神症状を引き起こしま。

また、「食欲不振」や「不眠」もしばしば生じるので、食事をして栄養をとるとかぐっすり眠って休養を図るといった生きるための行動が次第にできなくなってしまいます。前述のように、自殺に至るケースもあります。うつ病は脳神経細胞の機能不全状態なので、気合いや根性では治りません。回復のためには、休息と適切な治療が必要です。
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